「堪えるのです…ガイラルディア様…っ!!」
「……」

ホドが消えた。
姉上が死んだ。
母上も死で父上も死んだ。

すべてキムラスカが悪い



ペールに助けてもらってどうにか手につけた職がこれかよ
なぁ?いくら俺でもコレは勘弁

「お前、ガイっていうのか?」
「…何か」
「無愛想な使用人だな。もっと他の使用人みたいにヘラヘラ笑えないのか?」
「・・・・それは大変申し訳御座いません。ルーク様」
「フン、まぁいい」

ホドで傷ついた体の傷は癒えてきた。
今は頬に小さな絆創膏一つで済んでしまう。
けど心に残った傷は癒せない。
姉上たちがどうやって殺されたのか、俺はどうやって生き残ったのか肝心な部分が消えてしまった。
そして、女性恐怖症という病が発祥した。

俺はペールと一緒にこの屋敷に居候させてもらっている。
最初はこんな薄汚い家は真っ平だったが、お金も無く当てもない俺らには居場所がココにしかなかった。
ペールは自分が騎士であることを隠し庭師としてこの屋敷にいる。
俺はまだ幼いということでこの屋敷の息子の面倒を見る羽目になった。

「ガイ、少し付き合え」
「・・・・ご命令とあらば」
「命令じゃない」
「なら従いません」
「…」

好き好んでなんでコイツの言うことを聞かなくちゃいけない?
見たところ、父親に嫌われているこの赤い髪の子。名はルーク―――古代イスパニア語で聖なる焔の光
聖なる光かなんだか知らないけど目障りな光だ

「なら命令だ。剣を抜け」
「…」
「ガイ・セシルこれは命令だ」
「……承知しました」

目を伏せ軽く頭を下げ腰に挿してあった短剣を抜く。
相手は木刀を構え此方を見据える。
いい機会だ。今この場でこの光を消してやろう。
そうすれば少しは俺の心の病が治るかもしれない、なんて馬鹿なことを思いついてしまった。
子供っていうのは恐ろしい。一度そう思い込むとしばらくはずっとそう思ってしまう。

「いいんですか?ルーク様」
「ウルセェさっさと構えろ」
「…」

言われるがままに短剣を構える。
この剣はペールが守ってくれた大事な母上の形見だ。
この構えは父が最後に褒めてくれた素晴らしい流儀だ。
この瞳には今、光を消すことしか目に入らぬ憎しみに溢れている瞳だ。

利き足を滑らせ間合いを少しずつ詰める。
そして相手が動いた瞬間に此方は猛スピードで距離をつめ懐に潜り込む。
剣を構え心臓目掛けて突き刺す。

「――――っ!?」

何かが短剣に刺さる感触。
けれど生暖かい血の気配は感じられない。
運悪く短剣は木刀に刺さってしまったのだ。
急いで短剣を引き抜きバク転して距離をとる。
次は外さない

「ぁ…っはぁ…っ」
「…」

とっさの動作によく反応出来た物だと思った。
彼にはきっと微かにだが俺の姿が見えたのだろ。だから木刀で胸を庇おうとしたのかもしれない。
もしかしたら偶然重なっただけかも知れない。
体中に冷や汗をかき、肩で荒く息を吐きそれでも木刀を握る力は緩める様子は無い。
それは此方にとっては好都合。まだやる気があるなら今度こそ仕留める。

「お前…っ」
「…」

荒れる息を整える中必死に言葉と紡ぐ。
俺を見据え睨みつける。
一瞬だけその瞳に見惚れた、なんてことはありえないから自分の中で迷わず消去した。

「おやめください!ルーク様」

慌てて横からペールが割り込んできた。
俺を背にルークを説得するつもりらしい。
正直、迷惑だった。せっかく彼を殺すチャンスがあったのに。どうしてお前が邪魔をする?

「どけ!庭師のお前には関係ないことだ…!」
「どきません!ガイも剣をお納めください」
「・・・・ペール、これはアイツが言い出したことなんだ」
「ガイ…さ…ま」

そうなんだ。これはアイツが言い出したことなんだ。
アイツが自ら俺にくれたチャンスなんだ。だから―――

「退け。ペール」
「…お断りします」
「俺の言うことが聞けないってのか?」
「…お断りします」
「…ならお前も殺す」

剣を構え喉先に刃先を当てる。
ペールは驚く様子も見せずに俺を見つめる。
ペールの後では状況が把握できていないルークがついに膝を突いて息を整え始める。
そんなに俺の殺気は怖かったのかい?一回で始末できなくて申し訳ないことをしたな

「退け―――」
「――-!」

酷く冷たい瞳で睨んだのだろう。
ペールは俺に見せたことのない形相で俺の頬を殴った。
俺は耐え切れず力に任せてそのまま横に流され殴られた頬を摩るため、剣を離す。

「…いい加減にしなさい。自分の立場を弁えなさい…!」
「…」
「このようなことが旦那様に知られたら…貴方は生きてはいられなくなる…!
貴方は…今ココで死ぬわけにはいかないのでしょう?」
「…ペー…ル…」

そうだ
そうだった。
俺は何が何で生き延びなくていけなかった。
父上のため
母上のため
姉上のため
殺されたホドの住民のために

ファブレ公爵を殺すために、生きなくちゃいけないんだ

「……すまない」
「…いいえ。私のほうこそ…申し訳御座いません…!」

ペールは俺に一言謝罪の言葉を洩らすとすぐさまルークのほうを振り返り怪我が無いか確かめる。
俺はそれを遠くで見ている気がした。
どこか遠くでその景色を見ている気になった。

殴られた頬をさすって立ち上がり服についた埃を叩く。
ルークに近づき上から見下ろすと先ほど見惚れた瞳が此方を睨む

「・・・・」

これは悪くない。
彼は悪くない。
彼を殺してはいけない。

「大変申し訳御座いませんでした…ルーク様」

深々と頭を下げ心からの謝罪。
間違ってたのは俺なんだよな。
俺が殺すのは彼じゃないはず。なら、彼とはまだ使用人ごっこをしていてもいいなじゃないか?





いつか俺を恨んでくれるために

















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私の中の一番残酷な復讐って、相手に自分と同じ立場を合わせるものだと思います。
ゆーなればガイ見たいな感じ。
自分は全部お前の親父のせいで失った。
だからお前も俺のせいで全部を失え、みたいな。
私はこれが一番苦しくて一番切ない復讐だと思います。
そして尚且つ、ガイの場合は自分を少しでも慕ってくれればいいと思ってます。
慕っていればいるほど、裏切られた時の悲しみは大きいですからね
ほら、ヴァンとルークがいい見本ですよ
2006*03*09


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