「ですからせっかくのチャンス無駄にしないでくださいね」

急に風が吹きつけ視界をふさぎ始める。
腕で風を防ぐが薔薇の赤い花びらが邪魔をして彼女を隠していく。


「その薔薇の刺青が散ってしまったら終わりです」
「おい・・っ!」
「どうか、気づいてあげてください。あの人の声に」






視界を隠していた腕をそっとずらすといつもの屯所の風景に戻っていた。
右手の甲をみると最初に見たときと少しだけ印象が変わっているように見える。

(これが散ったら終わり・・・か)

あいつの言葉を鵜呑みにするのならば、俺のことを愛してやまないやつがこの世界にいて、そいつを探し出さなければならないらしい。
しかし毎日毎日刀を研ぎ澄ませて相手を切ることしか考えていなかったのに、ここにきてしかも死人から「愛されてますね」なんて笑顔で言われても。
考えても考えがまとまらず頭を抱えうなる。
悪態をついてふかしていたタバコを灰皿に押し付け、もう一度近藤さんのもとへ向かう
少しは何かの助けになるかも知れないと安易に思った







「なんだ?また何かあったのか?」
「いや、特には・・・・」

局長室に入ると珍しく机に向かう近藤さんがいた。書類整理をしていたらしく近藤さんの隣に処理済みの種類が少しだけ積み重なっている。
俺は入り口近くのふすまに腰掛タバコを取り出し火をつける。

「・・・めずらしいな、アンタが書類整理なんて」
「お前にばかり任せて置けないだろ?」

向けられた顔は女性の引っかき傷だらけで、絆創膏を張ってはいる
男の勲章だというその傷が俺はどうしようもなく嫌いだった
煙を外に向けてからまた口に含み煙を飲み込む。
静かに視線をやると楽しそうに書類整理をしている姿が見える。

下手したらもう会えなかったんだよな

ふと考えてしまうあの薔薇の刺青。
自分はどんなに死ぬことを恐れなくても、もし、本当に、俺が、


死んでしまったならこの人はどう思ってくれる?


「・・・なぁ、近藤さん。もし、俺がいなくなったら…どうする?」
「……」

近藤さんは書類を机に戻しこちらに近づいてきて拳骨を落としてきた

「ってぇ!」
「そういう冗談は嫌いだ」
「冗談じゃなくて、もし俺が死んだ―――」

ゴツン

「っ―――」

目から星が出るかと思ったほど痛かった。
殴られた頭を抑えて唸る俺を他所に近藤さんは俺の前にしゃがみこむ

「俺たちは武士だ。守るべきものためには死を恐れてはいけない。だがな」

うっすらと瞳に涙を溜め込んでおき、顔を上げると強い力で引き寄せられ抱きしめられる。
力強く、俺の存在を確かめるように強く―――


「それとこれとは別だ!俺はお前がいなくなるのは悲しいし寂しいし、辛い」
「・・・」
「だからそんなたとえ話なんてしないでくれ。ただでさえ、俺やお前は命を狙われやすいんだから」

離すまい、と更に力強く抱きしめられる。
少し溜め込んでおいた涙が静かに頬を伝いこぼれていく。
泣いているわけではない、けれど胸が締め付けられるように苦しい。
俺だって離れたくない、いなくなりたくなんかない。死にたくない
この人の隣でずっと 守り続けて生きたい


体の中で抑え切れなくなっていくよくわからない感情に身をゆだねて近藤さんと少し距離を置いて顔を上げる。
そして衝動的に顔を近づけ唇に触れるだけのキスをしてしまう

「・・・・え」
「・・・悪い」
「あ、いや・・・少し驚いただけというか・・・その・・」

口元を押さえて赤くなっている近藤さんを見て後悔よりも安堵のため息がこぼれた。
この人はこういう人だ。嫌だったとしても決して嫌だとは俺には言ってくれない。
そんな強いアンタだからこそ、俺は惹かれて引っ張られてここまで来たんだ。

「・・・俺、アンタが好きだ」

これが「恋」だというのなら俺は受け入れよう。
あの花畑から俺を呼んでいたのはきっとこの人以外にいない

「・・・こういう意味でだよな」

何も答えずに沈黙を守ると瞼を閉じて正座をして向き直ってくる。

「・・・・悪い、そういう対象でお前を見たことなかったんだ」
「・・だろうよ」
「だから少し時間をくれ」
「・・・」
「きちんと考えるから。俺もお前の事好きだけど、それは恋愛感情なのかきちんと考えるから」

俺は予想外の回答に戸惑いはしたが、心のどこかで「あんたらしい」と思えて口元が緩む。
ゆっくりと手を伸ばし頬に触れる。
暖かい温もりが伝わってくる感触を感じながら今度は俺のほうから腕に引き寄せて抱きしめた。


戸惑いながらも抱き返してくれた腕が無性にうれしかった












__________________
近藤←土方は個人的に好きです。
LOVEじゃなくてLIKEのほうが好きだけどw
2011*10*07




inserted by FC2 system