あの衝動から数日。
近藤さんは昔と変わらず俺に接してくれる。
それが少しさびしく思いつつ、真剣に考えてくれているんだと思うと少しだけ胸が痛いが嬉しい。

これがあの女のいう「恋」だというなら俺は甘んじて受け入れようと思う





仕事は問題なく進み、大きな事件もない。
攘夷志士たちも今は動く様子を見せない。
文字通り平和な日々が続いていた。
おかげでプライベートな時間が増えていき、いつもよりも総悟とやりやったり、何故か万事屋と酒を飲みにいったり、増えなくていい余計なことができる時間が増えた。

近藤さんの視線の先に誰がいるのかも分かってしまうほど



*   *   *  


今日もなんの問題もない平和な時間を過ごし、近藤さんに誘われて『すまいる』にきた。
告白ってもんをしてからまだ一週間しか経っていない。近藤さんはいつものようにあの女に殴られ、溺れ、散々な目にあっている。
正直、外見だけなら問題ないが中身が大問題のあの女のどこに惚れてるのか俺には理解ができない。
恋ってものが『理解できない』だからこそ俺はこんな運命に見舞われているのかもしれないが。

「またいらしてくださいね、土方さん」
「お妙さーん!またきますね!」
「次からはペットは置いてきてくださいね。うちゴリラの世話できる人いませんので」
「……」

馬鹿騒ぎが終わり、朝日が街に注ぎ込まれる中2人で岐路に着く。近藤さんの顔には複数の引っかき傷と殴られた後があるのに幸せそうに鼻歌を歌いながら歩く。
俺は上機嫌な近藤さんの背中を見ながらタバコに火をつける。
朝焼けの中うっすらと白い煙が空へと昇る。

どうしてあんな女がいいのだろうか。
暴力的でこちらが好意を寄せているのをいいように利用して毎回近藤さんに傷をのこして

どうして



「あ!ヤッベ!俺財布忘れてきてない!?」

上着のポケットを探りズボンのポケットも裏返しあわてて財布を捜すが見つからない。その間抜けな動作にため息をこぼしゆっくりと体を反転させる。

「トシ、先に…」
「戻るんだろ」

「ああ!」と笑顔でしかもいい年してスキップしながら俺を追い越し、またあの女のもとへと戻っていく。


*  *  *


うれしそうにスキップをしながら戻ってきたのをみるとどうやらワザと財布を忘れてきたようだ。
馬鹿馬鹿しいと思いつつ短くなったタバコを携帯灰皿に押しつぶして片すころ、店が見えてきた。
すると店の入り口に見慣れないスーツを着た男たちがあの女と話している。
遠くから見てもわかるぐらい空気は険悪だった

「なんだ…?あいつら」
「・・・・っ!」

隣にいた近藤さんに投げかけたつもりの言葉は届かず、女のもとに走っていく。一瞬何がどうなってるのか分からず動きが止まっていた視線の先で女が男どもに囲まれてやばい状態になっている。

近藤さんは迷わず割り込み、背中に女をかばう。聞こえる女の声は吃驚した様子で近藤さんの背中を見つめていた。
数回罵声のやりとりを聞いた後、男どもは悪態をついて去っていく。
完全に男どもが離れきるまで威嚇し続け、威嚇をといた後笑顔で女のほうを振り向く。その風景を遠くから見てしまって後悔している自分がいた

そして何がなんだか分からないまま近藤さんはまたあの女に殴られて地面に倒れていた。






「どういうことだ?」
「……」

近藤さんを肩に担ぎ屯所に戻ってきて手当てをし終えた後、問いただした。
最近、すまいるにはタチの悪い客が寄り付くようになったとか
そのことを偶然弟の新八に聞いたとか
それでこっそり山崎を見張らせていたとか。

「……職権乱用もほどほどにしてくれよ」
「……すまん」

救急箱を片しタバコを取り出す。
正直わけが分からなくなってきた。俺は本当にこの人とどうにかなりたいと思うほど好きなんだろうか。確かにキスはしたが嫌ではなかった。
死んでほしくない、守りたい、なくしたくない。
そう思ってるってことは好きってことであってるはず。そもそも――――

「お前は『あの女のどこがいいんだ』って聞くよな」

視線と言葉に思考が中断される。
こちらをしっかりと見つめてくる瞳に答えるように見つめ返すと小さく息をこぼしてから近藤さんは思い出したように語り始めた。

「最近気づいたんだ。あの人の弱いところ」

強がってばかりで、いや実際にはものすごく強いんだけど
道場を守るために頑張ってて、自分の信念を貫くためにどんなことでやれちゃうよな態度してて
けど、本当は普通の女性と同じようにもろくてはかなくて
とてもうつくしい人なんだってこと

「それで益々惚れちゃったというか・・・俺が隣にいることで救われる事があるのならって思うようになったんだ。けど、俺にはお妙さん以上に守りたいものもある。守らなきゃならない」

真撰組、この街の人々、己の魂
これはお妙さん以上に譲れない。そのために刀を手放さなかったんだ
命が尽きようとこれだけは守りきると

「お妙さんも気づいてるんだろうよ」
「あ?」
「自分を一番に考えてない男となんて付き合えないってことを」


もし、究極の二択――お妙さんと真撰組どちらかをえらべと言われたら俺は迷わず後者をとる。そしてもし、お妙さんを選んでいたならお妙さんは一番傷ついて一番叱ってくれて笑顔で殴り飛ばしてくれる―――貴方の守りたいものは私でいいの?

俺も、そんなお妙さんだから大好きなんだ


「だからトシ、俺は一生片思いなんだ」



――――最高の片思いでこの想いは間違いなく愛なんだ



そう笑う近藤さんの笑顔がとてもまぶしくて切なくなった。
あの女との時間より俺と過ごした時間のほうが多いはずなのに
きっとあの女のほうが理解してくれる。
俺の大切なこの人の真意を一番遠いところで理解してそれでも涙を流さず笑顔でケツ叩いて送り出してくれる。

今まで見えなかった二人の関係性が見えてしまった。

ああ、これが失恋というのなのか

すとんと、何かが落ちたように理解できた。それと同時に右手の甲から薔薇の花びらが散っていった














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最高の片思い。
気持ちや時間だけが恋じゃない
意味も分からずストンと理解できてしまう好意
それが恋なんだよ(ドヤ
2012*01*17





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