「さてと…」

ジェイドへの夜食の片づけを済ませ、借りた台所をもう一度見渡す。
使った調理器具は綺麗に洗ってしまった、持ち込んだ素材袋も綺麗にまとめて片付けたし。
一息ついてから水道の蛇口をひねり少し多めに水を放出させる。
両手のひらで水を受け止めて顔を洗う。
冷たい水の感触がいっきに目を覚まさせてくれる。
寝る前に何やってんだ、と思うけど何故かファブレ家にいるころからの習慣で今になっても抜けない。

夜になるとあの我侭なクソガキは俺に会いにくるから目を覚ましておかなければならなかったんだ。





思いよ届けー誰もが願うことー





不覚にも顔を拭くタオルを用意するのを忘れてしぶしぶ、料理中に使った手ぬぐいで軽く顔を拭く。
前髪が少し滴っていたり、頬のあたりがまだ水分を帯びている気がするが部屋に戻るまでの辛抱だと顔を横に振って水気を少しだけ飛ばす。

レムの塔以来、ジェイドの様子が可笑しくなったのはみんなが気づいてた。
あのジェイドが振り回されるなんてピオニー陛下だけかとおもっていたけどそうじゃなかったらしい。
あの我侭なクソガキはこの旅で多くの経験値をつんできた。
クソガキといってももうずいぶん前にアイツへの恨みは薄くなっていて、ただ単に腹の立つクソガキに成り上がっていた
それは少し複雑な思いもあったがそんな思いもずいぶん前に捨ててきた。
7年間、あいつのことはずっと近くで見てきた。
それこそ両親よりもほかの使用人よりも、ヴァンよりもずっと近くで見てきた。
めんどーくせ、ダリーがいつの間にか口癖になって朱色の髪もずいぶん伸びてきた。
朝起こすのも一苦労ででもアイツは「使用人の分際で」とは俺には言わなかった。
言ったとしても冗談まじりでいつも笑顔で言うんだ。
そんな馬鹿なお坊ちゃまに惹かれていった
時々、寂しそうに空を見上げて「どうした?」と聞くとあいつは決まって「なんでもねぇよ」なんて強がる。
そんなあいつの表情の裏が読めるようになって俺はどんどんあいつに惹かれて行った。

ある日、ペールに愚痴ったことがある。
あの我侭なクソガキの性格は誰に似たんだ、こっちの身にもなれ、何でも自分の思い通りになると思ってやがる、俺がアイツに教えてやんないといけないんだよな
次々出てくる愚痴にペールは終始ニコニコして聞いてくれていて最後に「さすがガイラルディア様ですね」なんて笑いやがった。「貴方はお優しい方ですから」なんて付けられてもうお手上げだったのをよく覚えてる。

優しくなんか、
でも嫌々やっている感はなかった。
あぁそうか、と自分の中で答えが出たときに俺は一生アイツの近くにいたいんだって思えた。
それが恋かと聞かれれば正直違うだろうと思う。
これはあれだ。兄弟愛とか親友愛とかそっちだ


昔のことを振り返りつつ自室に戻ろうとしたらルークの部屋からジェイドが出て行くのが見えた。
表情は見えなくて声を掛ける前にアイツは自分の部屋に戻ってしまって…あぁ、これはなんかやりやがったな
なんてため息をこぼしつつどこか嬉しく思う

「得意分野では負けませんよ」

頭の中でさっきのジェイドの声がよみがえる。
そうだよな、得意分野では負けられないよな
俺は静かにルークの部屋の扉をノックした


* * *


「ジェイド!」

ノックした途端、勢いよく扉が開きあわてた様子でルークが出てきた。
俺の顔を見た途端罰の悪そうな顔をして俯くから小さく息を吐いて頭をなでた。

「ジェイドじゃなくて悪かったな」
「…ごめん」
「それより、まぁだ起きてたのか?もう寝ないと明日がつらいぞ」
「…うん」

空元気を振舞う力もないのか俯いたまま返事をした。
それを見て益々ため息がこぼれて両手でルークの髪をくしゃくしゃになでまくった

「ちょッ、ガイ!?」
「元気出せとは言わないから悩みがあるなら話してみろよ。親友だろ?」
「…ガイ」

顔を上げてくれたルークはどこか泣きそうででも泣くもんかとこらえている表情だった。
それに気づかない俺じゃない。でもそれを言わないのなら俺は何度でも気づかないふりをする

「…ガイってさ」
「ん?」
「本当に、おせっかいだよな」
「事欠いてお前な…」
「ありがとう」

ようやく見せた笑顔はやっぱり辛そうで空元気がばればれだった。
そのままジェイドの部屋に行ってくると俺の横を通り過ぎジェイドの部屋にノックもなしに入り込んだ。
閉じた扉の向こうから二人分の声が聞こえてようやく安堵する。

「得意分野なら負けられないよな」

小さくこぼした言葉は絶対にジェイドには聞かせてやらないともう一度心に閉じ込めた。




翌日。
朝ご飯の時間にジェイドがルークと一緒にやってきてナタリアが喜んで二人を迎えた。
ティアは誰にもばれない様に小さく微笑んでアニスはまた料理を作ってきていて
久々にみんなで朝食をとった。








fin






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中途半端な気がするのは気のせいかしら・・・・・!←
てゆーかジェイルク!?
ルクジェイに見えるのは私だけかしら・・・!
ジェイドとルークのやり取りは省きました。
ナニするかはご想像にお任せしますw
2009*09*20

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