割られた眼鏡に忠誠を___________








「――――本当に可愛げないなぁ。お前は」
「貴方に可愛いだなんて思われてくありませんので調度いいと思いますよ」

司令部の一角に与えられた自室。
「大佐」というう地位を与えられているのだからソレぐらいは当然の権利だ、と周りは主張するが自室なんて有ればあるだけで不便なことが多い。
例えばこの人物――ピオニー九世陛下の場合、皇帝という権限を用いて勝手に忍び込んだり、または昔から失われることのない好奇心を生かし、無断で進入してみたりと…。ジェイドはため息を零す。

「まったく、少しは自分の立場をわきまえてみたらどうなんですか?陛下」
「今日は正面から入ったぞ。」
「ぶっ殺しますよ」
「やれるものならやってみろよ。死霊使い」

人の椅子にふんぞり返って座り、挑戦的なの笑みを零す。
その笑みがジェイドの堪忍袋を刺激することを理解しているにも関わらずだ。

「いいでしょう。やってみせましょうか」
「おぉ?何をするつもりだ?」

ジェイドは脳内のイメージを具現化させ、槍を出現させる。
そしてすばやく陛下の首元に刃先を向ける。一歩でも動けば動脈が切れ、死ぬであろう際どいところに。

「さぁ、陛下。死にたくないのでしたら今すぐこの部屋を出て行きなさい」
「それが皇帝陛下に対する口の利き方か?」
「皇帝陛下だと自分で仰るのなら少しは城で大人しくしていたらどうです?もしくはどこかのお転婆お姫様のように国のために街の見回りにでも行ってきたらどうですか?」
「だからこうして見回りを」
「いい加減にしなさい」

槍を持つ手につい力が入る。刃先の下から細くだが紅い線が流れた。
心の中でしまったと思っても絶対に表情には出さないジェイド。もしくはしまった、などとは思っていないのかも知れない。視線はずっと変わらず陛下を睨みつけていた。

「おーこわ。今日の死霊使い様はやけに機嫌が悪いとみえた」
「貴方がこの部屋から出て行ってくれればよくなると思いますよ?」
「やれやれ」

ため息を零し、肩をすくめる。そして渋々立ち上がる陛下はゆっくりとジェイドの横を通って出口に向かう。
ジェイドは振り向きもせず出現させた槍を音もなく消しさる。

「そうやって張り詰めてばっかいると色んな所で損することになるぞ」
「いいから早く出て行ってください」
「お前、何怒ってるんだ?そんなに俺が気に食わないのか?」
「自分の部屋に勝手に侵入されて尚且つ、荒らして帰っていくような輩を許せるほど私の心は広くないんですよ」

やれやれと背後で声がし、扉の開く音と足音。そして扉が閉まる音を聞くジェイド。
誰も居なくなった部屋を見渡し、状況を把握する。
本棚の近くは陛下が読み漁った書物が散らばっており、近くの小棚の下は陛下が持ってきた空き瓶が二、三本転がっている。

「まったく…人の部屋で勝手に飲みやがって…」

空き瓶を取り、ラベルを見る。
どうやら赤ワインらしい。逆さまにするとビンの中から紅い液体が零れてきた。

「しかもコレ…」
「お前が後生大事に取っておいたアレだ」

ジェイドの左肩には先ほど去ったであろう陛下の顔があった。
情けなくも気配に気づけなかった自分を恨み、そして半歩下がりながら振り向き陛下を睨んだ。

「そんなに死にたいのですか?」
「師団長ともあろう奴が俺の気配に気づけないとはな。俺もまだまだイケる口じゃねぇか」

一人腕を組み、勝利の微笑みを浮かべる陛下。
ジェイドは手に持っていた空き瓶を小棚の上に置き、陛下から視線を逸らす。

「いい加減にしないと本当に怒りますよ?陛下」
「ふざけてなんかいないぜ?大事な用事を忘れてたんだ」
「用事?」

陛下はワザと足音を鳴らしジェイドに近づき顎を掴む。
そして顔をギリギリまで近づけ、首筋の紅い線を指差す。

「お前のつけたこの傷、お前に手当してもらおうと思ってな」
「冗談」
「なら命令だ。舐めろ」
「……」
「カーティス大佐」

陛下の手から開放され、渋々陛下の首元に顔をうずめる。
一瞬、このまま食いちぎってやろうかと思うが、思い止まる。
両手を陛下の胸元に置き、下でぺろりと血を舐め取る。
既に少し固まりかけていた血は痕をほんのりと残すだけとなった。

「これで満足ですか?皇帝陛下」

嫌味をたっぷりと聞かせた台詞を吐きながら陛下から離れていくジェイド。
陛下は不機嫌そうに離れていく腕を掴み再び顔を近づけた。

「足りないな。ジェイド」

言い終わるのと同時に唇を奪われ、舌が侵入してくる。
とっさに後へ下がるが逃げ切れず口付けは深くなるだけだった。
角度を変え、何度も侵入してくる舌に翻弄され、次第に抵抗する力を失い初めてきたジェイド。
そこでやっと唇が開放され荒れた呼吸を整える。

「貴方という人は…ッ」
「なんだ?」
「私で遊ぶのも大概にしていただきたいのですが…!」

ジェイドの抗議を無視し陛下の左手がゆっくりとジェイドの足を撫でる。
陛下はジェイドの耳に唇を近づけ甘噛みする。不覚にも反応してしまったジェイドは左手で、寄ってきた陛下の体を押し返そうと抵抗する。

「ぅあ…っ」
「どうせなら『いやん』とかの方がヤりがいはあるけどな」
「くたばれッ」
「あぁ、それのほうがお前らしい」

再び唇を塞がれ壁に押し付けられる。相手の舌が歯列をなぞり唾液が零れてゆく。
深く長い口付けに翻弄されついには足にまで力が入らなくなり必死に壁に背もたれ倒れまいと力を入れるが
体は小刻みに震え思うように力が入らず、唇から開放されればずるりと床に座り込んでしまった。

「お?腰が抜けたか?そんなにヨかったのか?」
「っ―――」

上からの声に怒りを覚え真っ赤な瞳で睨む。
赤い瞳に睨まれ余裕のないジェイドが余程気に入ったのか陛下は口元を緩め微笑む。
右手で口元から流れる零れた唾液を拭き取りそのまま舌へと移動させる。
しゃがみ込み視線を合わせ隙だらけのジェイドから眼鏡を奪いクルリと指で回す。

「そんな目で睨みつけられてもちっとも怖くないぞ?」
「いい加減にしなさい…ッ貴方自分の立場というものを…―――」
「なんだ?」
「……(コイツ調子にのりやがって…)」
「俺とお前は幼馴染みだろう?」
「陛下っ」
「……はぁ ったくなんでお前はソコまで頑なに俺を拒むかなぁ…」

深くため息を零し眼鏡をかけなおさせ額に軽くキスを落とす。
そして立ち上がり扉のほうへとゆっくり足を進める。

「まっ 今日は腰砕けのジェイドを見れただけでもよしとするか」

そういい残し陛下は相手を挑発するかのように微笑み部屋を後にした。
扉の閉まる音と相手が消えたのを確認し壁を頼りに立ち上がり眼鏡を外す。
外された眼鏡をジェイドの右手に収まりレンズにヒビが入る。

「(いつか絶対に締め上げる…!)」

ジェイドは割れた眼鏡に誓いを立てた。









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え、なんでギャグオチ?………orz
無理だったんだもぉーんっ!
消えたと思ったら保存先が違ってみたいだもぉーン(あほ)
これ書くだけですんごい集中力必要だったわ…
あほだねぇーアタシ。
2006*05*01
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